聴こえてくるのは、雨の音。

ある意味、避暑地(自分だけ)

2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧

キミの話-第二章 vol,15

数日前、数時間前の私たちはまだ病室にいたはずだった。知らない街の知らない病院の緑色したリノリウムの床は足音を吸収し、靴を脱いでぺたりぺたりぺたり。その廊下は霊安室に続いていて、靴を履く気にもなれず、サンダルを脱いでぺたりぺたりぺたり。 「あ…

キミの話-第二章 vol,14

声が出なかった。目に映る物が目に映っているようでよく解からなかった。あれは何?あれ、誰?何も言わずに一度外に出た。扉を閉める。もう一度入る。何も変わらなかった。人のする事を何か言いたげな、じっとりとした目が6つ、こちらを見ている。 透明な、…

キミの話-第二章 vol,13

嫌な胸騒ぎしかしなかった。電話をしても電源が切れていた。何回も何回もかけてみるけど結局電源が入らなかった。遊び惚けている場合ではない。どう考えても様子がおかしい。ここ数日の様子、素行、それら全てがおかしい。反対されまくってもう面倒くさい、…

キミの話-第二章 vol,12

亮介からの連絡は飛び飛びだった。それでも時間をみつけては私の声を聴きたがった。飛び飛び、とは言っても何日もあくわけではなくて、物凄い短い時間の通話を一日に何度も繰り返す感じ。例えば台風で傷ついた屋根の修繕に手を貸している時。空がちょっとだ…

キミの話-第二章 vol,11

亮介は、夜に近くなった夕方頃、申し訳なさそうに私の元へ電話をしてきた。煙草を買いに来たついでにコンビニ前から連絡をしているという。私はその時間にはもうとっくに自宅に戻っており、上を向いたり横を向いたり、ころころ ころころ、体勢をあっちやこっ…

キミの話-第二章 vol,10

嫌な状態のまま朝を迎えた。亮介は起きても隣にいなかった。まだメールの返信もなかったけれど気になったので電話をしてみた。電源は切れたままだった。はぁ、とため息をついて自分の携帯の充電ケーブルの先をみて気づく。亮介の充電器が刺さったままになっ…

キミの話-第二章 vol,9

「もうね、決めました。私たちは逃亡します。探さないでください」 遠藤さんにそう告げた。探さなくてもあんたの事だから、遠藤さーん!ここでーす!新住所でーす!最高に幸せでーす!って送りつけてくるでしょ?と言われ、なーんで知ってんのー遠藤さんはエ…

キミの話-第二章 vol,8

毎日暑い日が続き、少し通常体制を崩した亮介の元には毎日親からの連絡が入った。 「大反対を受けている模様です…」と遠藤さんに言うと、学歴だとか家柄だとかそんなだいじなもんかね?やっぱいっちょあんたら海外逃亡でもかましてさ、そんなもんは糞くらえ…

キミの話-第二章 vol,7

亮介と二人、部屋でコンビニで買ってきたアイスを食べていた時の事だ。亮介の食べているのはいちごのアイスで、唇や舌が見事に紅く染まり、顔を見ては、んふふふ♡口の周り紅い、と言いあったり、長時間働いて疲れた足が浮腫んでだるい…と嘆くと亮介はアイス…

キミの話-第二章 vol,6

8月、夏の盛り。町内の夏祭りではそれぞれに担当場所が割り振られ、今年はイカ焼きを頼まれたんだよ、と亮介が言った。 「亮介さ、祭りもいいけどほんと学校…どうなってるの?いいの?」 と聞き、笑いながら 『みゆちゃん何言ってんのw学生は夏休みだよw』…

キミの話-第二章 vol,5

「結婚しようと言われたの~。結婚しよう、だってぇえ」 とひとり浮足立っている私に遠藤さんは、どっちに?どっちと?と酷い言葉を投げてよこす、本当に人の恋愛模様を面白がっている中の一人であった。 どっちって精神病もちの大学生に!と言ったら、ハッ…

キミの話-第二章 vol,4

私は毎日毎日検索の鬼と化した。会社でも猛スピードで仕事を固め、片手間に精神病とは、薬とは、治療とは、病とは、そんな事ばかり検索した。知っていて損はない。今はよくても困った症状が出た時にこちらがどのように望めばいいか、は、シミュレーションし…

キミの話-第二章 vol,3

会社で遠藤さんに昨日の話をするととても興味津々で、それはそれは私の立場よりも何よりもその行為自体に興味津々で、人間の関係性とは…と考えさせられると言った。私は私で一瞬でもそれを重いと感じてしまった自分というのを激白し、自分の事もしっかり出来…

キミの話-第二章 vol,2

毎日蒸し暑い日が続いた。いつの間にか私たちは近所でも名物カップルとなっていて、何か買いに行くにもいつも手を繋ぎ、それでも飽き足りず "じゃんけん負けたら!次の電柱までおんぶ!ゲーム"という子供みたいな遊びに興じていた。投薬のせいでsexはうまく…

キミの話-第二章 vol,1

一緒に暮らすと言ったって私は部屋は引き払わず、たまに荷物を取りに戻る形で亮介の家から会社に通っており、特に何が変わったというわけでもなかった。出来たら何も変えたくなかった。何かを変えてしまうと亮介が不安がると思ったし、元々はあの人の部屋な…

キミの話-第一章 vol,12 (第一章 完)

約束通り仕事を切り上げ、亮介宅に直帰した。泊まるつもりはなかったものの、置いて行った分の服はあるし、シャツは洗濯してしまえば夏の間は一晩で乾くし、泊まるなら泊まるでいいかなーと思っていた。 電話の後は、こうだったらしいああだったらしい、と頂…

キミの話-第一章 vol,11

亮介の発した声に、ん~なにがぁ?と後ろから画面を覗きこんでギョッとする。 メッセンジャーには溢れんばかりの罵詈雑言。嘘つき、最低男、やりチンもやりマンもどっちも死ね、地獄に落ちろ、あの女許さないっ、等々…。添付画像には何枚も何枚もぱっくりと…

キミの話-第一章 vol,10

その、亮介も困っているという相手は駅前で待っている。ヤバい人なの?なんかこう…そっち系の?と尋ねるとそうではないらしい。でもきっとみゆちゃんならそんなに嫌な顔もしないと思う、と言った。どっちが?向こうが?私が? その人はサエという名前だった…

キミの話-第一章 vol,9

わぁわぁ言いながら花火を終えて部屋に戻った後だった。 ねぇもうお風呂入っちゃうね~、トイレ行かなくていい?ユニットだからと声をかける。 シャンプーやリンスは買っておいたし、たりない物があれば言って、入ってる内に俺が買いに行ってきてもいいから…

キミの話-第一章 vol,8

『俺はあんまり…幸せだったとは言い難いから…どっちか言うと、色々を覚えないように、思い出さないように来たから…』 亮介は学校に行けている。しかも相当にいい大学だ。私のように知らぬ間に、わが家を家族面してのっとるような狂人じみた大人に支配される…

キミの話-第一章 vol,7

約束通り翌日はあまり待たせてはいけないと思い早めに亮介の家のある最寄り駅へ出向いた。二泊三日程度の荷物をボストンに詰めて、一駅手前で言われた通りにワンギリしておいた。駅に着くともう迎えに来てくれていて、驚いたのは髪の色だった。綺麗に黒く染…

キミの話-第一章 vol,6

今になって思う。何年もたって今になって思う。人には年齢がある。それでも生きる魂には、その時何を考えて、何を愛し、何を学んだか、それらが肉体とはまた別の、魂としての年齢を決めていくのだと思う。小さな大人もいれば、大きな子供もいる。亮介は世の…

キミの話-第一章 vol,5

よく眠った。本当によく眠った。丸くなっていた体をぎゅうっと伸ばすと足に何かが当たった。ん?これはなに?足でゴソゴソしていたら結構派手な音がして驚いて飛び起き、それが足の長い丸くてパカパカとするアメリカンなボーリング場にありそうな灰皿であっ…

キミの話-第一章 vol,4

始めてブラウザの外に出た亮介にあった。一緒の時間も過ごしたし、待ちわびるマサトからの着信も一切なかった。明けかける空に一日働いた体は悲鳴をあげていて、始発で帰ろう、帰って泥のように寝よう、そう思っていた。始発で帰るねと告げると亮介は 「俺、…

キミの話-第一章 vol,3

私と亮介は、亮介の行きつけだというダーツバーに行った。ダーツなんかするんだ…その恰好で?と何から何まで意外だったが、暗い店内に入ったら腰を落ち着けるか落ち着けないかで、マスターいつものね~と亮介が言った。それから私に好きなとこ座んなよ、と言…

キミの話-第一章 vol,2

久しぶりにマサトが連絡を寄こしてくれた。それなのにニコリともせず、あんな返事を投げつけた。ひどいものだった。好きならば自分が遊ばれていてもひとつ返事で"はい!喜んでー!"と飛びついていればいいのだ。なのにそれが出来なかった。好き過ぎたのだ。…

キミの話-第一章 vol,1

2004年、そろそろ夏も本番に入ろうかというある夜の事、最近全く連絡のつかないマサトからの連絡を待ちつつ、部屋で独り、ぼんやりとしたあかりをともしビールを飲んでいる時の事だった。箸も全く進まずで肴の刺身も急激に生ぬるく乾き、色がくすむ。その色…

キミの話-はじめに

いつかどこかでどんな形でも書いて形に残そう、例えばkindleで0円で そんな風に考えていました。 以前FBで書き綴っていたのですが書くたびに痛み、思い出すのも苦痛で途中でやめてしまいました。 続きが気になります、の声も、途中まででも胸が痛くなりまし…

生温いナマコ

物がなんであれ人類史上、初めてそれを食べようとした人を私は尊敬している。 例えばふぐ。あれは見た目が魚なので、比較的、手を出しやすい物の、そんな物をよく食おうと思ったな…だいぶ食う物に困ったんだろうか…と思えるものもあったりする。今となると『…

家族という名の関係性。

なぜこんな事になっているのか、果たしてこの状態はいつからだったのか、をずっとずっと考えている。体の事だ。 この症状をとめるにはオペが必要だろう、という事は明白だが、日本ではまだまだ研究が遅れており、難治性の類に入ってしまう。診断が下らなかっ…