聴こえてくるのは、雨の音。

ある意味、避暑地(自分だけ)

キミの話-第二章 vol,12

亮介からの連絡は飛び飛びだった。それでも時間をみつけては私の声を聴きたがった。飛び飛び、とは言っても何日もあくわけではなくて、物凄い短い時間の通話を一日に何度も繰り返す感じ。例えば台風で傷ついた屋根の修繕に手を貸している時。空がちょっとだけ近いと電話をしてきた。自動販売機のジュースが100円だったというだけでも電話してきた。独りになれる時間があるとやたらと鳴らした。早く会いたい。早く顔みたい。早く帰りたい。言葉になるのは決まっていつもその事ばかりだけったけど、何も話題がなくたって、一秒たりとも離れるのが嫌な私たちの事だ。別々の時間が離れたままで重なる。

 

私は平日は変わらず仕事をしていたので、遠藤さんのサポートが有難かったし、これが本社ならばこうはいかない。好きな時間に携帯を眺めていても、遠藤さんは遠藤さんなので、すべきことさえきちんと仕上げていれば何も言わなかった。むしろ頑張れよ、そんな感じ。

 

「亮介、私、11日は京都にいるから。友達のライブみて、その後、お父さんとこに寄る予定。泊まって次の日戻ろうかなって。亮介の方が13日に戻れそうって話なら、途中で…どこか…大阪あたりで落ち合う?ふたりでちょっと観光してさ、その日のうちに東京戻れば私も次の日から仕事出られるし…今なら予定、1日ずらして11日からの休みに変更してもらうって事も可能だから、それでよかったら連絡してね。じゃねー。愛してるー」

 

亮介は、あの留守電を聞いただろうか。

私の声で吹き込んだ、あのメッセージを、聞いただろうか。

 

いまだに、はっきりとしていないところも多い。

ただ、あれを聞いたのは、多分亮介ではない。

私がその日、東京にはいない。

私がその日、亮介から目をそらす。

私がその日。

 

8日あたりから、亮介の様子がぐっとおかしくなった。薬を持って帰っていないのだ。あんまり長く間を置くのも離脱症状が出て危険だ。少しの分なら本人が財布に挟んでた持っていたのを知っていたが、あれは本当に少しだけだし、そうした事も原因のひとつであったのだろうとあの時は思っていた。錯覚させられていた。

普通の親なら、その辺りだって考慮するはずだ。何故、帰省に、薬を持ち帰らせない?亮介は黙っていたのだろうか?それにしても知っていたとしたら、持ち帰らせるのが普通だし、知らなかったとしても、忘れ物はないかと確認してから連れて帰れよ…だ。

 

「遠藤さん~なんかぁ…電話口からシャリシャリ音がしてて…顔見られないから寂しいよ、とか、離れちゃってるけど忘れないでとか言われたら……あまりの寂しさに電話口で擦り始めちゃったの!?って不安だったんだけどwwあれ、いまおもうと貧乏ゆすりの音っすなぁ……。。落ち着かないのかなぁ…大丈夫かなぁ…」

 

遠藤さんは、なんでそんなセンチメンタルな時に自分のを擦り始めるんだよ、頭おかしすぎるだろwwと笑ってはいたけど、彼はあんたを取り上げられてそうとう参ってるはずだよ~、励ましてやんないとー、と言った。

 

 

9日あたり、とても後ろ向きだった。もう二度と会えないんじゃないかと思うくらいのトゲトゲしさでどうしようもなさそうだった。会ったら伝えたいと思っていた事をこの場で伝えてやった方が落ち着くかもしれないと思ったくらいに彼は、何かに押い詰められていた。そもそも、亮介は親が苦手なのだ。苦手な人間と3日過ごすのも過酷だと思うけど、今回は結構頑張っている。多少、精神状態に波があっても仕方ない。何のことだか解らなかったけど

 

『やることはやったし、あとは14日にそっち帰るだけだから……あとちょっとだけ頑張る』

「私明日から2日ほど京都だけど、ちゃんとお土産、かってくるからね♡」

『…京都。京都いくの。いいなぁ。』

「うん?」

 

私は本当に、なんにも、なんにも、知らずにいた。バカだ。

 

10日。変更はなしで 10 11 12 日で休暇を取り、13日にはもう会社へ行く事にした。いずれにせよ14日に亮介が戻ってきさえすれば赤ちゃんの事が話せるし、今一番の最重要トピックはそれ、そこの日さえあればいいのだ。朝、京都に向かう新幹線の中でメールを受け取った。

 

---昼は家族ででかけるので、電源を落とすね。何かあったらメールしておいて。夜、連絡できるなら連絡するよ。友達のもとに戻るからって羽目外しすぎないでw浮気は厳禁。あいしてるよ、みゆちゃん。もうすぐ帰れる!はやく会いたい~

 

---あ、みんなでどっかいくんだ?楽しんできてね。戻ったらほんとにいっぱいいっぱい話あるんだから~ケーキ、買い直さなきゃw無駄になっちゃったよね、あれ。

 

電源が落とされたのか、もう返事がなかった。

この時にはきっともう、私の連絡先は自分の携帯から削ってただろう。電源を落としていたのは、私と別れたというふりをするためだった。亮介は何かと独りになれる時間を見つけて、連絡をくれていた。電源をたちあげていて、たまたま私から鳴ってしまうと全ての努力が水の泡だ。別れを偽装したのだ。どう脅されたのか想像はしたくない。しかし大の男が簡単に腰をあげるような理由をつけて、脅したのだ。

 

10日の夜、そのまま返事がなかった。

 

11日の昼、二回着信があったけれど、私が京都の友達と観光中で、その着信に気づいたのは夕方だった。友達のliveが19時からだった。19時の会場入り前に2回、高瀬川の流れをみながらコールした。赤い影がゆらり、水の中で揺れてた。

 

liveが終わって、楽しかったねー、うちあげどこいくー?なんてわいわいやってる時に、ふっと携帯に目をやったらメールが来ていた。

 

 

『みゆちゃん

 

僕は

君がいない世界を

蒼いとは 思えない 』

 

京都の夏は東京よりもムシ暑い。みんなは先に歩いて行って、あれ?みゆ、まだかあ?と少し先で立ち止まった。嫌な予感がして動けなかった。

 

「んー……彼氏、やばいかもしんない…」