聴こえてくるのは、雨の音。

ある意味、避暑地(自分だけ)

キミの話-第一章 vol,9

わぁわぁ言いながら花火を終えて部屋に戻った後だった。

ねぇもうお風呂入っちゃうね~、トイレ行かなくていい?ユニットだからと声をかける。

 

シャンプーやリンスは買っておいたし、たりない物があれば言って、入ってる内に俺が買いに行ってきてもいいから、と言われたので、着替えやタオルを持って閉じた便座の上に置く。服を脱ごうとして気づく。

 

「ちょっwwwとwww待ってwwwwこれwwwこれどういう事wwwwwww」

 

昨日まで真っ白だったシャワーカーテンは今見ると観葉植物の棚を覆うような透明なビニールに進化を遂げていた。透明なんですけど!あれ!?透明ですよね!?これはなんなんですか、裸の王様的な?心の汚い奴にはそれが透明に見えるのだ!とかそういう仕様のそれなんですか?と捲し立てると

 

『俺も男だし、見たいから』

 

とサラリと言った。は??

ままま待ってください。あなた。正気の沙汰とは思えません。何を考えてらっしゃるの?私たちはまだあれですよ、体の関係もないですし、見たいから、はいそうですか、ではどうぞ、なんていうわけねぇだろうが!となり、

 

白いシャワーカーテンはどこへ!お客様!お客様の中に白いシャワーカーテンはいらっしゃいませんかー?と叫びだしたくなる。

 

普通そんな姿は見ないし見させない。一緒に入るなら仕方がないけれど。

 

『俺、便座んとこ、座ってていい?』

 

いやいやいやいやいやいや…いいわけねぇだろ。ちょっと、そこにいるんならT字のカミソリとってくんない??脇そらなきゃ…とかない!ないからねー!ない!

 

『あ、俺、携帯忘れたわ…取ってくる。』

 

え?なんで?ゲームでもすんの?なら部屋でしなさいよ。なんでわざわざここですんのよ、あんたの携帯、防水じゃないでしょ?

 

『え、ムービー残すんだよ』

 

はい???頭おかしいの???撮らせるわけないでしょ??

 

『え、ダメなの?』

 

ダメでしょ、何言ってんの?

 

『これから一緒に暮らすのに?』

 

これから一緒に暮らすんならムービーとる意味あんの?

 

『え…毎日とるつもりだけど?』

 

観賞魚か何かなの??成長しましたって?メッセンジャーで誰かに送るつもり??あ!バイト??バイトするんでしょ、それで!こっわい!もう、別れる!!

 

と怒ったら、あー!うそ!ごめん!!ごめんなさい!それだけは!勘弁を!というので、じゃあ白いシャワーカーテンに戻すか、戻さないんなら鍵かけるから出てってよ、という押し問答があり、天才の考える事は一切わからない、と思った。

 

亮介はただただ純粋に私を一分でも一秒でも長く眺めていたかったらしいが、私としたら、男慣れしてんならそんな事も平気でしょ?と言われている気がしてこれは舐められているな!と受け取るしかない状況だった。

 

そんな事を狭いユニットで続けていたら、突然玄関チャイムが鳴って、え、誰お客さん?こんな時間に?と二人で顔を見合わせた。立て続けに連打され、まじかよこえぇよ、だってこの部屋、物盗り来たんでしょ…??

 

亮介がちょっと見てくる、と玄関に移動したがもう誰もいなかった。

 

玄関の欄間は段ボールが貼られたままなので、こじ開けようとすればすぐだ。怖くなってしまって、やっぱりいてよ、というしかなくなってしまった。ここはもう覚悟を決めるしかない……。

 

スカートの下に手を入れてするりするり膝までおろし片足ずつ抜く。私があまりにもじもじしているので可哀想になったのか、脱がせようか?と声をかけてくれた。ベッドでくんずほぐれつで脱がされて…は、あっても、こうした状況はあまりない。

 

ものすごく緊張した。あの時の緊張は私の中で"平成の裸の王様事件"として記憶に刻まれている。

 

彼の部屋の電気は全て、スイッチひとつで蛍光灯と青い電球とが入れ替わるようになっており、ユニットの黄みがかった電灯は私の顔を照らすので青い電球に切り替えて貰った。雰囲気が一気に水槽の中か、水の惑星みたいな色になる。さすがは金持ちの子。さすがは傷への慰謝料。札束の恩恵に与る。

 

便座の上に腰かける亮介の頭を抱えるようにして私が立ち、キスを交わしながら彼の手がスカートを降ろす。足元にパサッとおちるスカートの音にも敏感になるくらい、出会って始めて一番そばにいた瞬間だったように思う。離れてしまう唇を何度も追うようにして彼も立ち上がり私のシャツをまくり上げ上手に脱がした。

 

ユニットなのでタオル掛けが壁面に出ており、奪い合うようにキスをしていたらタオル掛けの端に私の髪がひっかかり、それも上手にほどいてくれて、壁側から離れられるよう反対にするりと身を返し、亮介が壁側・私が便座側にたった時、鏡越しの私の背中にきづき

 

『あ……人魚がいる』

 

と声に出した。私の肩には蝶々が留まっていて背中には人魚が居座っている。ヒラヒラ飛んではフワフワと生きてせまい隙間を器用に泳ぐ、そんな生き方をする水陸両用の自分にはぴったりだった。亮介は私の全てを美しがってくれたし、有難がってくれた。

 

『中、入っていい?』

慈しみ愛しむようなSEXは性的な興奮よりも母性を呼ぶ。小さな子が何かを求め、キャンディ程度の物しかもっていなくても何かをその掌に包んでやりたいと思う、そんな感情に似ている。どこを触れば気持ちがいいか、そんな事よりも、その子が寂しがらぬようだきしめてやりたいと思う感情の方が自分を充分に満足させてくれる。私を求める、愛してくれるその声を招き入れて、私の中心で、真ん中で、抱き合う。

 

性的興奮を満たすだけのためなら誰だっていいし、それが好きな人でなければいけない、とは考えた事がない。需要と供給。私は昔からそういう点は根っからドライだ。誰でも、とはいかない慈しむような感情を自分から引き出してくれる相手、それが、愛する人。私たちは誰もての届かないような深い場所で愛し合った。

 

全てを見せあった後は何の恥ずかしさもなく、私が気にする形の悪いおっぱいも、大きなお尻も、全部全部愛しているからねと嬉しそうに言っていた声の温度や、湯気や、シャンプーしあいっこや体洗いっこなどなどをしながら、時間が排水溝に流れていった。足元を流れていった。

 

亮介は言った。

『みゆちゃん、全くムダ毛がないね。あいつの事、毛深そうって言ってたけどこれだとあいつ、そう言われてもしゃーないww肌ざわりびっくりするw色も真っ白だし、なんかの病気じゃなきゃいいけど…』

 

始めて髪の毛にハサミが入ったのは小6の時だ。私は元々、全ての色素が薄めで、髪の毛もなかなか生えそろわず小さい頃は体も壊して、よく心配された。私はもう何も持たなかったけれど、こうして時間を遡るようにその手でその頃までをも、撫でてくれる人がいる。撫でてくれる人が出来た。お風呂上がりの髪の毛だって拭いてくれる。

 

互いが互いに、愛されたいと願った年月をゆっくり埋めるように石鹸の香が立ち、それはまさしくの幸せだった。いつもは何かが足りていない、だけどこんなにも満足した。人は皆、愛されたい。子供の頃みたいに無条件に誰かに抱きしめられたい時がある。もういいよ!とか、うるせーな!とか、うちの母親恥ずかしいんだよ、と言葉を漏らせるというのはきっと幸せな証拠だろうと、持たない者同士は思う。

 

そうして欲しかった、愛して欲しかったんだよね。私たち。

 

お風呂から上がると亮介の携帯に着信が入っていた。えー…とか、なんでまたぁ…とか呟いている。んー?どしたぁ?と聞くと、俺みゆちゃんのその、どしたぁ?って言い方すこぶる好き、と言った後に

 

『いやさ…さっきのピンポン、知り合いだったらしいんだけど。この時間に急にくるかよフツー…まぁ…フツーじゃねぇんだけども、その人。俺もちょっと困ってる…』

 

「呼んだげれば?しばらくお話でもしてかいさーん!でよくない??まだお店どっかあいてるでしょ?髪乾かして、化粧したらすぐでられるけど?」

 

風呂入ったのに面倒くせぇな…もあったけど、若いうちの事だ、そういうフットワークの軽さはあった。んじゃ悪いけどそうさせて、と下唇をペロリと舐めてから相手にコールした。