聴こえてくるのは、雨の音。

ある意味、避暑地(自分だけ)

キミの話-第二章 vol,5

「結婚しようと言われたの~。結婚しよう、だってぇえ」

とひとり浮足立っている私に遠藤さんは、どっちに?どっちと?と酷い言葉を投げてよこす、本当に人の恋愛模様を面白がっている中の一人であった。

 

どっちって精神病もちの大学生に!と言ったら、ハッwと鼻で笑われたけど、あんたが幸せならそれでいいよ、も忘れず付け加えるような心優しき人であった。私の説明の仕方もどうかと思うが事実だったので仕方ない。

 

それはいいけど色々を話したのか、と聞くので、話しましたよ?一部ですけど、と答えると、それでそれで?なんてなんて?と見逃したドラマの続きを見たい聞きたい!という状態で、この頃はよくさくら水産にてお酒に付き合わされた。でも、亮介も待っている事を知っているので九時には解放して頂けるという、有難い気の利かせようも持ち合わせる、よい先輩でもあった。女二人でさくら水産。ししゃも頼んだりして、激渋だった。

 

「案外そういうのに限ってダークホースかもね~。あんたの為だったら彼は必死に、それこそ馬車馬んなって働くんだろうし、ダメなのあっちだけじゃんwこれで大人の玩具でも買ってもらえば言う事なしかもよ~?」

とえげつない冗談を言いながら、時に、あー私にもそんなロマンスこねーかなぁあ!こんなとこであんたと飲んでるようでは来ないわなー!とぐずぐず言っていた。

 

『こないだね、掃除したついでに枕あらったわけですよ!そしたらあの枕、羽毛でw枕の端っこ脱水の勢いで破れちゃって、あー!破れちゃったー!って騒いでて枕投げ始まったんだけど、中から羽根がふわぁ~って出ちゃって、ものすごーく夢みたいな美しさで愛し合ったんだけどちゃんとち〇こ勃ちましたよ?羽根、痒かったけど』

と言ったら、オチよ!!と爆笑していて

 

「海外逃亡、ありかもよ?グズグズしてないでそうしちゃいなよ。彼だって向こういって環境変わったら、お薬ってなんですか?くらい回復するかもよー?」

 

『まぁ反対されたらね、そうしようかな、とw』

そんな会話でししゃもは食い尽くされる。

 

 

2004年当時、違法だ違法だと言いながら、そこまでの取り締まりも強化されておらずネット社会はファイル共有が大流行の兆しにあった。技術者の中には独自の自宅サーバーを構築していた者もおり、それを何人かでシェアしていたりして、誰かが映画や音楽のファイルをP2PでDL、自宅共有サーバーにつっこむ、そこから各々好きな物をDLする、という今では絶対NGな事が、ネット利用者もいまほどはいないし仕方ないんじゃないかな?といった状態のまさにウハウハな時代でもあった。

(今では絶対いけません!やめましょう)

 

5月に公開になった『世界の中心で、愛を叫ぶ』ももう同年の夏には入手できてしまっていた。(ごめんね、行定監督。謝罪します)

 

「わー!私絶対これ泣くやつー。観ない?観ようよ。」

『あー。予告でみたけど、そういうの好きな人だなんて意外~』

「えー。なんでー?切ないの、きらいー?」

『切ないって感情がよくわかんないからねー、俺w』

「今までは、でしょ?またちょっと違うかも」

 

そんな事を言いながら、二人並んでマットレスに座って映画を観た。さくちゃんが亜紀を抱きしめながら"助けてください"と叫ぶシーンで我慢ならない嗚咽を漏らしながら亮介のTシャツで鼻や涙を拭いたりしていたら、終わった後にものすごい顔で私を凝視して

 

『そんな泣けたかぁあ~?』

と不思議そうに言った。

「信じられなーい。これでぐっとこないなんて亮介やっぱりお薬のんだ方がいいよー。なんでこれで泣かないの~?」

と鼻をズビズビやってたら

 

『これでそんな泣くやつの方が信じられないよw経験した事もないようなことにそこまで気持ちを寄せられるってのが俺にはわかんない。それに、これ、作り話だからね?俺はみゆちゃんおいて死んだりもしないし、みゆちゃんも俺おいて死んだりしないから、こんな事にはならないしw』

 

と、言った。そう言ったのだ。確かにそう言った。私の横で、猫背で膝をたててそう言った。亮介のTシャツの右側の裾が、私の鼻や涙で濡れて湿ってた。たまに預ける右側の肩甲骨辺りには溶けたファンデーションがついていて。テーブルの上に置いていた雪印の甘ったるいパックのコーヒーにはストローが刺さっていて。それを亮介は私に手が当たらないように左手でとってじゅうううううと吸った。コーヒーのパックを手に持つたびに、ブレスレットがチリリと音を立てた。今は私の左手で、ここぞというに時だけチリリと鳴る。いつもいつも下唇を舐めるから、コーヒーも一緒に唇についてツヤツヤに光っていて

 

だから泣くことないよ、と頭をぐしゃりとやってから引き寄せたそのキスが甘ったるくて、いつまでもいつまでも舌の上にのっているような気分になる。私はいつも、あの時なんて事を言ってしまったのだろうという気分になる。好きだから、嫌いになった、もう二度と顔もみたくない、と言えば良かったと思う。

 

以来、毎年、雪印のパックのコーヒーを持ち、セカチューを年に一度だけその日にみて、泣く。

 

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