聴こえてくるのは、雨の音。

ある意味、避暑地(自分だけ)

キミの話-第三章 vol,13

あの時は自分の意思と反して色々が進み、あれよあれよという間に身の周りが片付いて固まった。まさしく、夢のような。

 

約束通り、私の代わりにバイト先に話に行くと言い出した。とても心配になったのは私の前に何人かが辞めたいと申し出た後に血まみれになって事務所に戻った事だった。ある子はやってもいない罪を着せられ弁償代金の請求を実家にまで送られた、辞めたいのに辞めさせて貰えないと怯えていた。今回の話は腕か足の二,三本は覚悟するべきであなたは仕事があるのだからやっぱり私が、いや俺が。じゃあ私が車から見張っておくのでSOSがあったら大至急、そんな状況で話をしに行った。

 

あまり顔を出さないそこのトップのいる日で、これはヤバい!一番ヤバそうな人!とも思ったが後にも引けず、会わせたい人がいる、と言って呼び出し、近くのコンビニの駐車場で話し込む二人を見守った。一度トップが事務所に戻ってまた降りてきて、何かを受け取り解散。何もなかった。

 

「どうだった……?」

『うん、どうもこうも。結構いい人だったw』

「いい人なわけないでしょー!?外道!外道だよアレ!」

『あー、これ預かったよ。紹介料6人分未払いだったからって。後、何とかさんに宜しくって』

「!。わかった。さっさと車、出して」

横浜のあの人だ。助かった。あの人絶対すごい人だったんだろうと思う。無傷でなんて突破できないような場所だったのに。可愛がって頂いた。もし話がもめたら、関係ない人間を巻き込むわけにはいかないので、一年前の生活に戻る事も覚悟していた。

"そこへ戻るのでどうかご勘弁願えませんか?"

そういうつもりだった。封筒の中をみたらきっかり60万入っていた。紹介した方々には申し訳なかったが、楽な仕事というのは世の中にはない。何かしらきちっと落とし前をつけられるようにその相場は決まっている。

 

そんなこんなで、この後の彼の活躍により、私のドクズでハードでヘビーな一年間は幕を閉じた。私だけの力だとこんなにうまく回っていないはずだ。殴られて蹴られてなんぼだった人生、本気で東京湾地底でも何の不思議もない。10人紹介し、40万は先に頂いたので残り60万、焼肉奢る!そう言って二人で焼肉を食べた。

 

しかし、彼は色んな現場にやってきた。友達と遊んでいるというとそこへ来て、私がその頃なんとなく付き合っていた彼氏の椅子にほぼ膝乗りの状態でくつろいでいると

『おい、何やってんだ。帰るぞ?』

と言いに来ては、誰?となり

『俺、こいつと結婚するんでー。ではー』

と私の腕を引っ張って、全ての悪い縁を断ち切るが如く、日夜動いた。

「なんでよ、何のつもりなのよ。なんでつきまとうの!?付き合ってもないのに、何様なのよ」

自分のペースを乱されて私が怒ると

『自分でもわかんない。けど放っておくわけにはいかない。帰るぞ』

といつも言うのであった。あんまりに強引なので、引っ張られるままだったけれど、よくよく考えるとその生活はよくない、と一掃してくれるような物だったには違いない。私は何かしら守られていた。

 

GWには実家に帰るというので、ああそうなの、何をして過ごそうかなーなんて思っていたら、自分がどれだけ本気なのかを証明したい、自分に嘘はないという事を理解して欲しい、だから一緒に帰らないか?と誘われた。

 

誰も彼も嘘をつく。私を独りになんかしないと言った言葉も嘘だった。

"自分は死なないからみゆちゃんは泣かないで済む"映画を観て泣いている私に言ったのだ。嘘ばかりだ。

 

だから間髪入れずに、嫌です!と即答した。付き合ってもいない子を東京から連れて帰って結婚話なんかが出たら厄介だから行きません、と断った。そんな話は阻止したかった。二年前に傷ついたばかりだ。塞ぎたい傷をわざわざまた切って広げるつもりなのかこの人でなしが!とさえ思った。

 

親には友達だと紹介するので一緒に行こう、たまには気晴らしに、そう言って実家に連れていかれた。

 

東京から岡山までは車でいった。途中の出来事である。何かが車の横をかすめた。白いスゥーっとした、何か。

「さっき何かいたよね?」

『え、運転してるから見えなかった。何かって何?』

「わかんない…白いやつ…」

暫くしてから

『あ!え?あれの事?あれなに?』

と言い出した。何かよく解からないものが車のそばを走っていて、それはハッキリ二人ともが見たのでよく覚えている。その何かが車のボンネットに一度のり、それからガラスを添うように這って車の上に登って行った。

『車の上にいるねー…ライターで焙ってみる?』

「やめときなよ…火あぶりとか可哀……あああああああ!」

『?』

「……いや、なんでもない…彼かもね…」

『反対なのかなw俺らが付き合うのw』

……逆だ。この展開はまずい気がする。まずいと思った。

 

彼の自宅は国道から脇道に逸れて山を登ったてっぺんにあり、そこについたのは深夜0時回ってからだった。

『ここ上がるとうちに着くんだけど、ここから携帯の電波とか入らないからそのつもりで』

「えーこわぁ…何ここ。こんなとこ人住めるの?実は殴り殺して埋めて帰る気でしょww」

『やばい世界にいすぎるとどうしても発想がwwバイオレンスww』

などと笑いあい、さあ登るぞとした時に、車のヒューズが全部切れた。真っ暗になった。真っ暗だ。ああ、なんなの…。

 

まだ山に差し掛かっていないので親に連絡をしてここまで迎えに来てもらうよ、と彼がどこかに電話をして車に戻ってから

『やっとここまでたどり着いた。初めて話した夜からやっとここまで来た』

と言った。初めて話した夜…と復唱して、ああああああー!と悲鳴をあげた。初めて話した夜も電気がついたり消えたりした。死ぬのかもしれない。親だと言いながら誰か悪い仲間が来て散々回されてから殴られて殺されて山奥に捨てられてしまう、どうしよう!最低!触らないで!なんてやっていたら、親が来た。初めましての挨拶をして、家に連れて行って貰い、翌朝おきたら、大テーブルの出してある座敷に食事がずらーっと並んでいた。

 

"え、どういう事。あ、ああ、あれか。ここは本家で連休中に親せきが戻ってこられているのかも"

 

と思ったら、あの子が結婚すると聞いて嫁さんを見に来たんじゃ、とかなんとか、近所の人たちも総出で集まっており、あっちとこっちで目配せをして

"おい!どういう事なんだよ!友達連れて帰るって言ったんじゃねーのかよ!"

と思っている私の目配せを、何をどう受け取ったのかはしらないが、その場で

 

『籍は戻ったら入れようと思います。多分、あっちで10日後くらいに。式はしません。俺らはそういうの、望んでないんで。』

 

やめて……喘息もってないけど発作が出そう!!

わーパチパチ、おめでとうー!!

ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

というわけで、もう断れない!もう断れない!どうしようどうしようどうしよう!

ちょっといいからここにハンコついて。はい。あ、待ってそれ…

 

ああああああー、ギャフン!という流れで13年前の5月15日、いつのまにか夫婦になってしまった。

 

「って事で、私、完全にはめられたの!」

肉を食べる。

『いいや?はめてないよwこれで良かったんだってw』

主人が言う。

「でもなんだかんだでねーちゃん、幸せそうじゃん?」

と圭吾が笑う。

 

「僕からいうのもなんですけど、ねーちゃん、にーちゃんの件ではずいぶんと苦しんだと思うんで…幸せにしてあげて下さい。にーちゃんもきっと笑ってるよwねーちゃんぽくてww

今日からじゃあ、新しいにーちゃんですね。僕の事もよろしくおねがいしますw」

 

『私、墓参りに行きたいのよ。あれから全く会えてないし。』

「墓参りに行かなくたって、彼はいつもお前の傍におるやろ。俺の夢にめっちゃ出てくるw」

思わず飲み物を噴き出す。

 

『あったことないのに!?なんで?亮介、なんていうの?』

「泣かしたら承知しない、泣かしたらすぐにでも俺が貰うって」

『私死ぬじゃん!』

「にーちゃん、やるなぁ~」

『いや、でもね、こうなるまでにおかしな事多かったのよ。ねぇ。例えばあの車の白いやつ…』

「おーおー、あれなー!あれ、なんやったんやろな?」

『その後、火あぶりって言葉使ったから、亮介だと思った…』

「いや、俺はその亮介君から、お前を守ってやってくれってしばらく夢で頼まれたからああしただけで…」

『やっぱりじゃん!やっぱりいたんだ!』

「にーちゃん、ねーちゃんがいないと生きてけないからw」

『生きてけないってもうとっくに死んでるけどね?w』

 

「違うよ。そういう意味じゃないwねーちゃんが生きてないとって事よ。自分が生きる場所がない」

 

『やめてー、それ、遠藤さんにも言われたーやめてー』

「でも不思議やと思わん?何のつながりもなかった人間が彼を介してここに集まってて、その話してるんやで?不思議やん、それこそ。いつか手をあわせてあげないと」

「ねーちゃんにはにーちゃんと、新しいにーちゃんがついてるから多分二人はうまくいく。にーちゃんはねーちゃんを殺さない。新にーちゃんも、ねーちゃんを奪われないようにw大切にw」

 

亮介はあの場で、お肉を食べながら、生前我慢してたお酒をのんで美味しそうに煙草を吸っててくれたんならいい。そしたら輪の中に入れた。本当はあなたと私が一緒になるべきが一番だったけれど、それももう叶わない事であれば、誰かに託す、それもありかもしれない。二回目の人生で。その先で会いましょう。愛する亮介。いつでも、傍に。