聴こえてくるのは、雨の音。

ある意味、避暑地(自分だけ)

Talio

"力なき正義は無能であり、正義なき力は圧制である。なぜならば、常に悪人は絶えないから正義なき力は弾刻される。それゆえ正義と力を結合せねばならない" パスカル

 

何に関してもそうだ。例えば陰と陽のあのマーク、影と光があり影は影だけでは存在出来ず、光は光のみで成り立つ事はない。表裏一体があり、初めて物事が成立する。人は何をもって立派とするか。それらを考えさせられた一ヶ月でもあった。

 

 

こちらへ越してきて早三か月が立とうとしている。ある日の夜、主人がこちらに住まう以前から仲良くしていた同業者と飲みに行く、と出かけて行った。その日の数日前からたびたび、胃が痛い、とよく口にする事があったので疲れているのだろうと考えてあまり飲み過ぎないように、飲むのであればしっかり食べて、とまるで母親のように口うるさく言い、送り出した。帰宅は深夜を回り、珍しくベロベロ。そんなに話が弾んだのかと思い楽しかったかどうかを尋ねると、俺はあんたみたいに暇じゃないし、とか、自分で商売やってる連中に楽しい話なんかほぼほぼない、など喧嘩腰の言葉雨を降らし、眠いから寝ると寝室へ引っ込んだかと思うや否や、部屋から飛び出しトイレへ駆け込みゲエゲエやっていた。理由もわからず急にあの態度である。言い返してやろうかとも思ったが、ここ数日の態度といいその感じといい…これは何かあったな、とピンときた。

 

翌日はまだ胃のむかつきが酷かったのか力なく笑うので、昨晩のあの態度を覚えているかと尋ねたら、全く記憶に御座いません申し訳ない、との事。それにしてもあまりに眼差しに力がなかったのでそれにて確信した。これは、何か大きな出来事があるに違いない。

 

仕事がうまくいっていないのか "NO" 好きな人が出来たとか?"NO"

どこかでオイタして責任がうまれてしまったとか?"NO"

 

なかなか本音を言わなかった。気になるのは当然だが本人が口にしたいと思わない物を根掘り葉掘り聞きだすのも余計に悪い方向へ人を流す事がある。口にすることで自分はそれらで苦しんでいると認識させてしまい、そこで自分は弱い、等と思わせるとアウトだ。物を生み出すという仕事には自由な発想力が必要で、表舞台を恐れるようになるとそれっきりになりやすい。とりあえず聞くことはやめて、一緒に走りに行きましょうよ、と誘ってみた。有酸素運動は脳に酸素を送るので低迷している時には良い効果をもたらす。ひと汗かいて、それからね♡♡

 

幾分かスッキリしたようで少し安心していたが、あまり食欲もないし、と言って軽くつまみながら飲んでまたトイレで吐き始める。これ以上は放っておくわけにいかなくなり、何があったのかを尋ねた。

 

 

彼は20代のころ、あるブランドに就職した。どうしても職人になりたくて、その頃は五年付き合った同棲中の彼女もおり、結婚も間近であった。それらもあったのにどうしてもその仕事に就きたくて勝手に上京し、彼女を招きたかったそうだ。若い二人にはその距離がネックとなった。両親には紹介済みで後は入籍だけ、そんな関係を解消してまで就きたかった仕事だ。そこにいる事で多くを失い、多くを身に着けた。私たちが出会った頃にはまだその職場にいた。彼はトップを師と仰ぎ、今の自分があるのはその人のおかげだと私に聞かせた。結婚の挨拶に伺った時、彼から聞いていた話上の人物と実物とは私の中で相当のギャップがあり、変な匂いがした。私は共感覚があるのでどうしてもそのような表現になってしまうが、とにかく、変な匂いがしたのである。

 

独立すると困窮するとはわかっていた物の、私はそれを選ばせた。とにかくすぐにやめて頂戴、何か嫌な予感がするし…リミットは二月ね。不思議に思われることも多いが私のそうした直感はハズレがない。特に大きな問題の時は。自身の問題も頭で考えるよりも直感に従う事の方が多く、そしてそれがいつも、助かる鍵となる。私があまりにそう言うので怪訝な顔をしながらも"じゃ、そーする"と退職をした。思った通り、翌月の三月にはちょっとした事件があり、早めの退職申請で翌々月払い規定の給与が我が家だけはきっちりと振り込まれ、その他従業員への支払いは支払われずストップしてしまった。

 

そんな状況からの一念発起で私たちの今日がある。彼は彼で、あまりにあちらのブランド力が大きいのでそこで仕事をしてきたというとその名前に乗っかってしまう事となり、それは自分の力ではないから公言はしたくないし、まだ胸を張って弟子であったと明かせない、そこまで実力が追付いていないから師の顔に泥を塗る事になってしまう、が、いつかはきちんとお礼が言えるようになったらその頃には挨拶に伺おうと思う、と語っていた。大事な青春の一時代を過ごした場所である。私がいくら鼻につく匂いを感じていたとしても、彼は彼で、また思うところが違うのだ。妻であり、ビジネスパートナーである私が出来るのは

"あなたなら出来るわ、いつか超えられる" そう告げるのみであった。

 

そして今年、何店舗目かで東京店を構えられる事となった。この機会に、と越してきてから挨拶へ伺う準備を入念に練り、うちのスタッフ内一、実力のある人間にも会わせておきたい、何故なら自分を育ててくれた師であるので何か学べる事も多いのではないか、とわざわざ岡山から呼び寄せ、二人で緊張しつつ会いに行った。

先方は断らず笑顔で迎えてくれたそうで、某ソーシャルメディアにはその日の写真も大々的に載っており、しかし文章は全く意味が解らず、言いたい事が全体の2割程度しか伝わってこない粗末な物で(文章とは恐ろしいもので、行間にその人自身を孕むとして私は読んでいるので底抜けで丸見えの性根が見え隠れするものである、と思っている)思った通り、全くよい香りがしなかった物の、本人がきちんと義理を通せたのだしそれはそれで良い時間であったのだろう、と思っていた。

 

そこから数日後、本人の耳に別のユーザー様から連絡が入る。

業務提携なさったのですか?

こちらとしては寝耳に水である。まさかそんな、と思っていたら、出るわ出るわの大騒ぎ。彼の持って行ったうちのブランドの物を完全にコピーし、型紙まで公開した挙句、この野暮ったさが、とか、こんなものは30分もあれば作れる、etc…。

表面上は綺麗に飾り立てた言葉が並び、狭い業界みんな承知で平気でやりあおうだとか?生き馬の目を抜くのはこの業界の宿命だとか?(どっちやねん、前者にはパクって何が悪い!が現れているが、後者には、恐れおののいているので潰しにかかります、が表れているぞ、とw)

 

気の毒な事に彼は。我が家のあの人は。長年目指していたその相手がとんでもない人間で義理だとか人情だとか愛情なんかを持たずして、鴨が葱背負って挨拶に来やがった、程度にしか思われておらず、その感覚はまさに、担任教師にレイプされ誰にも言い出せず耐えているような状態にあったのだ。気づかないで本当にごめん。これはひどい。一人で耐えるには、重すぎる内容だった。相手が全くの他人であれば、こんな風に悩んだりはしなかっただろう。差し出された手があまりにも穢れていて、今までの数年間、自分はこんな人間を目標としていたのか、という感情もあっただろう。それは、ひどい裏切りである。

 

それらは例えば、仲間内だったり、傘下だったり、今まで悩んだ時にご教示頂いた、等があればやってもいい事かもしれないが10年以上疎遠である。それで生活を営んでいる人間はあなた程の力はなくとも、同業者であり、代表や社長として呼ばれて然るべきであるが、いまだ、呼び捨て。いまだ、上から。きっかけはあなたが与えた物だったかもしれない。しかし以後、ここまでやってくるには苦悩し、努力し、自分達が、彼が、お客様が作り上げたものだった。同じものを作ってみたかったから好奇心でひとつ作ってみた、とはわけが違う。それはあちらのブランドから売り出されてしまった。その型紙までを公開し、野暮ったいだのなんだのと、良い歳の大人がひとつを貶さねば俺は偉い、と言えないのであろうか。営業妨害も甚だしい。それに。自分の周りで働いてくれている人間を「使用人」等と呼んでいる。小間使いをする為にみんなそこで働いているわけではない。従業員を大切に考えているのであれば、そのような言葉は浮かばないであろうし、粗末で粗悪な心の持ち主が誰かから慕われる気持ちを自身で拭い去るような真似をして、俺は孤独だ、を気取るだなんて恥ずかしくないのであろうか、と思う。独りよがりなだけだ。人を大切にしないから、その結果を引き当てているだけだ。

 

過去に某美大出身で大きな賞を受賞した友と語らった夜の事、その子は言った。

美大を出て才能がある人間は発掘されないだけで沢山います。才能がある、技術もある、でもそれをビジネスに繋げられるかと言えば答えはNOです。それらはどうしても二の次になってしまう。発掘されない、ではなく、売り込んでいく方法もしっかりと教えるべき事であり、それは最近の大きな課題でもあります。意外と自殺者が多いんですよ。それしかできない、でもそれができる、そうして生きてきた人間にとって、ではそれが生業に繋がるかと言えば教師程度しか枠がない。自分で作る、そして売る、そこに輪が出来る、これからもお二人は活躍されるでしょうから僕は安心と尊敬を持っています」

 

作る、売る、輪が出来る。そうして作り上げられたのが今のうちの店である。彼自身の力、周りの力添え、それらが合わさって商売は初めて成り立つ。そこへ来て、作品の生みの親が苦しんでいるところ、生き馬の目を抜いたのであろうそれらの中の一文に

「僕はどっちでもいい~」と書いてありました。とさ。評価なさるのはユーザー様であるのでそちらをご購入なさっても何も文句はありません。それらにユーザー様方を巻き込むつもりもありませんし、上同士の問題です。こちらも巻き込まれて厄介に感じているので、関係のない方からしたらもっとでしょう。ごめんなさい。非常に申し訳ないので、完全に以降、無視していこうと思っています。(というのはふっかけられる事象に対してであり、それらへの対応を完全に無視する、というわけではありません)

 

脅威を感じたから潰しにかかる、そうしていないと経営も火の車なんでしょうね。私が一番に怒れるところは、人の誠意をふみつけたようなその態度です。師弟関係などがなければあなた達は一人間で、私などは初めから完全に赤の他人です。赤の他人から見ると、恥ずかしくないのであろうか、としか思いません。例えば、返すつもりもなく他人から拝借したお金で豪遊し「まあパァッとやろうや」と言う人はまともではありません。初めからまともだと感じた事はありませんが、ひとつ添削して差し上げると

狭い業界みんな承知で平気でやりあおう、というのはされた側が言うとカッコよくてキマる言葉であり、した側が言う言葉ではないのです。因みに、承知で、の文言に「だから許してね」が入り、この場合の本音は「平気で」に当たります。俺はそういう事を平気でやる人間だけどまあ許してよ、という事になりますね。2点。許すも許さぬもそうしたかったからした、それは何故か、答えはひとつ、脅威だったから今のうちに潰しておけ、という物しか見えてきません。誰がどう生きて死のうと知ったこっちゃないので、私が遺憾としているところはそこではないのです。

 

人としての道理に背くか背かぬか。「人に感謝した事があるかどうかが見えてくる」ところです。金があるから、力があるから、そうした表面上だけで人との関係を築いた人間であれば、物理的なものが物をいうので、こちらの意図する事がわからないかもしれませんね。

 

感謝があって、いつか認めて貰いたい、そうして頭を下げに行く人間の気持ちを舌を出して踏みつけにした、それらは全て自分の評価となります。仕事などは大人になると生きていく上で人生とも呼べるもの、その上でなさった事がそれなので、今回私たちは大変勉強させて頂きました。反面教師が出来た時、それとは真逆を選べばよいという道が見えたという意味で。技術も必要ですが、商いは、経済が介入しないと成り立たず、その経済を握るのは「人」です。自分達の人生では死ぬ時に、ようやく死んだね、等と呟かれる人生よりも、いなくなってしまって悲しい、寂しい、教えてくれた事を生かしていきていく、と思われたいなと願います。お金を稼ぐ事が目的ではなく、それらが色を添えて生計が成り立てば有難い事、人は泣かさないようにしよう、抱えられるだけは抱えて、人が笑顔になるような良い物を出していこう、と思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 

"我々は嘘の看板を上げて名誉を得ようとする。徳はただそれ自体のためのみに追求せられる事を欲している。それでたまたま人間がほかの動機から徳の仮面を冠っても、徳はやがて我々の面上からそれをはぎとる。" ミシェル・ド・モンテーニュ

 

私たちは、負けません。何故か。はぎとられてしまうような仮面を被るつもりは毛頭ないからです。お互いの健勝と繁栄を願います。敵だとは思っていません。赤の他人、ですから。