聴こえてくるのは、雨の音。

ある意味、避暑地(自分だけ)

我を忘れる

雨だ。生憎の。

昼間に干していた洗濯物を取り込むのを忘れていた事に気づいたが、いま取り込んだところで体は頭から水浸しになってしまうだろうし、それに。うちの造りは庭に通じる扉となると和室からの出入り口しかない。取り込んだところで畳にも雫が落ちる。どっちにしても濡れるなら雨脚が弱まるまでそのままに、風呂に入ってしまった方がいい。そう考えて風呂へ入り、バスタブに潜って気長に窓をあけ、雨の様子を伺いながら読みかけのエーリッヒ・フロムなんかを読んでいた。人間の持つ「愛」について描かれた書物はごまんとあるがのんびりと、時間を気にせず読むにはエーリッヒ・フロムか亀井勝一郎だろう、と勝手に独り言ちている。ただ物好きなだけ、そう言われれば、そこまで。広義の意味での愛は好きだが、恋愛物は苦手だ。した方が早い。

 

雨だし、退屈なのだ。雨の日は走れない。

もともと言うほど運動などは得意な方ではない。映画好きで読書好きの編み物好き、とくれば、運動なんて無縁の生活である。しかし走る事だけは別だ。昔から退屈だったり、自分の考えだけに囚われてしまいそうになると何故か黙々と走った。脳が酸欠状態になると血流が悪くなり鬱持ちの方々同様、ろくな考えが浮かばなくなる、だからそういう時には有酸素運動は効果的、とはよく言ったもので、体得している部分が大きく、何かあるとすぐに走りに出てしまう。まだ若いころ、両の膝の皿を割った事があるので気を付けなければいけないのだがそれも忘れて走り込んでしまう。先日友達と話した際に、膝が痛くて走りに行けなくてとても残念だ、と話したところなのに、昨日はまた走りに行ってしまった。なぜそんなに走りたくなるのか、友達はよく理解できなさそうだったのでわかりやすく説明しておいた。この感覚は、一種の旅行に似ている。

 

当然、毎日忙しくて旅行になんか出かけられないのだ。そんな事は友達も言われなくても知っている。いまの自分の生活があるのは当たり前の事で、ただ息抜きが必要だ、と自分でも感じる事がある。色々手にある責任をここで思い切り手放してしまったとしたら、私以外の家族の毎日はどうなるだろう…と、たまにぼんやりと考える事がある。それは私だけに限った事ではなく、誰の人生も予定外のものかもしれないけれど…。ただ、何か他の人と違う部分があるとしたら、私は肝心な時に、私の望んだ選択をしなかった。選択をしなくても、現在が続いているのであればそれは選択したのと同等、私には責任がある事なのだが、たまにすべてを放棄したくなる。気が済むまで家に戻らないとかありですか?そうして尋ねてみたらどんな顔をされるだろう…なんて考える事が多々ある。私には昔から放浪癖があるので、じぃっと家庭におさまっている事自体、昔からの友達にとってみると不思議で仕方がないらしいが、あまりそうした自分の感情については建議もしないのでいつふらりといなくなってもおかしくはない、とは感じているらしい。笑ってしまった。なるほどそのように見えているのか、と思ったりもした。大人になっても安定しているようで全く安心させられていない私、周りの人たち、ごめんねw

 

だいたい学生時代は門限なんてなかったし、どこで何をしていても誰にも何も言われなかった。結婚するまでは家になんかいた事もないくらいに働いて、週末は逃げるように旅行し、三か月に一回は通勤に響かない近距離で引越しをして、毎日自由にやってきたのに結婚して子供を持って初めて門限が出来るなんて…いつからそんな真面目なんだよ、わたくしめは…そんな風に思いつつ生活をしている程の事です。

 

ただ少し!ほんの少しだけでいいのです!空気を!空気を下さい!そうなってしまう時には走りに出かける。膝は一向によくはならないものの、心肺機能も向上するし、汗だくながらちゃんと短時間で家に帰るんだからいいじゃない!そんな気持ちで夜な夜な出かけてしまう。似ているのだ。とても。旅行に出かける時のあの感覚に。車の窓をあけてゆっくりと発車する時に感じる額に受ける風、徐々にスピードが上がり置いて行かれる景色たち。自分の気持ちも共に置き去りにしてしまうような、あの感覚に。そこにエモい音楽なんかあったら最高である。さようなら、疲れた私!世界は喜びで溢れている!と走り出しは大声で叫びたくなってしまう。やーいやーい!私は家を後にした!責任なんて放棄して走り去ってやる!あぁ、みんなも走ればいいのに!グチグチとtwitterで心情を吐露してる暇があるんなら、元気な人みんな、走るべきだよ!!とまで思ってしまう。大きなお世話だ静かに走れ、だけどwなんせ、生活には変化がないと楽しくなく、その変化は誰かが連れてきてくれるわけではないので、自らがかわるべきなのれす🤤

 

そんな感じで走り出し、まだまだ余裕のある頃には色んな事を頭の中で考えている。あれとあれを使ってこの料理を作ってみるのは如何でしょう、だとか、そういえばこの辺でみかける猫ちゃん最近みないなー、とか、邪魔だよどけよ横並びで歩道を占拠するんじゃないよ!、あらこんなところに感じのいいお店があるのね知らなかったわ、とか、次から次に色々を考えて端からどんどん忘れていく頃やってくる…ねを上げそうになる何も考えられないあの感覚。息を吸うのにも必死。こうなるともう何も考えられない。大人になってから「息もつけない」「何にも考えられない」ような状態に陥る事なんてそんなになくなってしまった。これは貴重である。息もつけない程に誰かに恋焦がれる事もなければ、何も考えられないようなSEXも余程相性がいいか気分が乗っているとき以外に、ない。ないね。ないよ。お酒を飲んでも何かしら考えているのに、強制的に何も考えられない状態になった頃からさらに進んでいくとやってくるセカンドウィンド現象。急に呼吸が楽になるんである。あ、このまんま、まだ遠くまで行けちゃうな、どーしよー!!なんてやってると20分30分はすぐなので隣町までいって入ったことのない路地を駆け抜け、街のネオンを置き去りに、どんどん走る距離を伸ばし、家について

 

うぁー!走ったー!膝いってぇぇ!風呂入ろ♡

と痛いくせにしばらく上機嫌で一人へらへらしながらベッドへ潜り込む。もう、やめられない。一種の麻薬感ある。もしかしたら旅行に出て一年くらい戻らなかった時のトリップ感があの短時間にはあるかもしれない。私は本当に人よりも何も考えない時間なんてないのではないか…と不思議になる位に夢でさえあれやこれやを考えていて翌朝に忘れないようにメモしたりするタイプなので、あの何も考えなくていい時間、というのが走る以外では生み出せないだけなのかもしれないが。大人になるのは楽しいけれど、なんのしがらみもなく笑って息がつけなくなって、だとか、誰かのLIVEで踊り狂って我を忘れてキャッキャする、なんて事が本当に出来なくなってしまうので若いうちに出来る事は沢山しておいて損はないです。大人、楽しいけど、退屈。それだけ賢くなったって事なんだろうけど。ちょっとだけ残念。なのです。

 

ところでやはり、最近寒くなったせいか膝が急激に痛く悲鳴をあげています。。両の膝の皿を割った、その一度目の方の膝があきらかに痛く、バンテリンがないと過ごせない。あれは忘れもしない、まだ10代の頃。街に不良少女が越してきたのです。すごい不良の人でした。めちゃヤン。相当のヤン。恐いヤン。。心底の友達と感じていたわけではないのですが、あちらが友達になろうと言い出し彼女と仲良くする事で離れて行ってしまう仲間たち。まぁそれでも日々は過ぎる物で、ある日そのヤンが、うちな~彼氏出来てん、と紹介してくれたのです。おぅ良かったやん、と言いつつ、その時に、これで私みんなの元に戻れるのねラッキー!なんて実は思っていました。しかしそれが甘かった。事あるごとにその彼氏も含め三人行動なのです。なんなんだ、このドリカム編成は…昭和の時代にそんな事を思っていました。二人きりで会えばいいのに…あてられてるみたいでやってらんない!(それに私はヤンには言っていなかったが実は彼氏いたし!w)

 

そんなある日、急にヤンが来ず、何故かその彼氏ばっかりが会いに来る日が続き、なぜ最近来ないのか、と尋ねたところ、ピンサロのバイトに行ってる、と言います。まだ未成年ですよ、私たち!ヤンは随分色っぽいのでごまかせそう!とは言うものの…何を考えてるんですかあなた達は、とかけてる眼鏡を上げたくなりました。かけてないけど。この彼氏が働かせて金をせしめようとしているのかも知れない、そう思い、ヤン彼に

「ちょっと。あんた一丁かんでるわけ?彼女でしょ?平気なの?とめなよ!」と言うとヤン彼は私が事情を知らなかった事の方に驚いた。何があるの、それ以上に何かあるなんてききとぅない!ききとぅない!

「あいつ、妊娠してんだよ」

はっ!?!?あんた孕ましといて何そんなとこで働かせてんの、どこの地獄からの使者…そんな風に思っていたら、どうやら現・ヤン彼の前の彼の子……との事で。色々あるので割愛しますがとにかく入用には違いない、そんな事態の中、ヤン彼は言いました。

「まーなんていうか、俺好きな人出来ちゃって、最近それで結構もめてんだよね、状況が状況だし…」

「いやぁ…そりゃなんていうか…タイミングってのも、あるかと…。とはいえまだ付き合ってるんでしょ?」

「形上は、ね~。はぁ…でももう最近…んー、ちょっと無理かなー…」

そんな事を言いながら帰って行きました。その日からしばらくして、私、ヤンに夜、相談に乗って欲しい事がある、と呼び出される。あぁ…きっとその話…あぁ…気が重い…話が長くなるかなー…と思いつつ、それならとコーラを二本持って言われた場所へ。

 

ヤンはまだ来ておらず、暗闇からカラカラと音がする。なんだろう、と思ってじぃっと見ているとヤンが到着。と、同時に鉄パイプで思いっきり膝をどつかれるwww息も出来ないくらいに痛くて痛くて、何があったのかも理解できずうずくまる私にヤンの罵声。

「あんた、うちの男誘惑したやろ!あいつがあんたの事好きや言い始めて、あんたのせいでうちらめっちゃ揉めとんねん!殺したろうかと思ったけど、あんなしょうもないのん、あんたにやるわ。私もう別の男できたし!まぁ、あんたら仲良ぅしいな~」

(はい?ヤン彼の言ってた好きな人ってわしかい!!今初めて聞いたわ!っていうか…)

 

『私、彼氏、いる…困る…いらない…』

「え?あんた彼氏おったん!?架空でか?wほんまにおるんかいな。言うた事ないやんけ」

『言う必要ある?信用もしてないのに言う必要あんの?友達だと思ってんのあんただけでしょ?』

そこへかけつけるヤン彼。ヤンを迎えに来た新彼。ヤンは颯爽と新彼の車であざ笑いながら去っていき、残ったヤン彼、ここぞとばかりに優しくしてくるのでとりあえず病院行くし先輩を呼んでおくれとお願いし病院へ。あー割れちゃってるなーの告知、こんな時になんだけど俺お前の事好きなんだ、次から次に降ってくる色々に私の処理能力は完全にオーバーし、夜の待合室に響く私の大絶叫。

 

だから!私!彼氏いる!

 

何日間かは家の前に花だのなんだのが置かれていたし、電話もかかってきたけれど、いい加減あいたくないしヤンがいなければ出会わなかったんだから私とあなたは友達でも知り合いでもなんでもないです、さようなら、これが!一度目の皿割事件。

二度目は車でひかれたからw(割愛)

 

そんな痴情のもつれから、全く関係ない私が永遠にこの膝の痛みを引きずり、でもそれでも今、思う事があるのです。人は無理な付き合いをすべきではないし、嫌なら嫌だ、辛い事は辛い、ときちんと訴えていかねば、失う物の方が多くなってしまう。それを言えなかった自分には何かしらの罪があるんだろう、と思っていますが、それらからも逃れたくなる日、膝は痛く、今日は雨で逃れのランはお預けです。

 

雨脚が弱まったのでズクズクの洗濯物を取り入れてきます。ああ、走ってどこか遠くへ行ってしまいたい。なかなか忙しい年末になりそうです。おやすみなさい。