聴こえてくるのは、雨の音。

ある意味、避暑地(自分だけ)

彼女はいつも最前列、私はいつも一番後ろ。

ネズミハナビの吉田君が渋谷でLIVEをやるんだと声をかけてくれた。


ネズミハナビ「Dance.」

 

私は自分の"音楽"カテゴリーからhiloに連絡をした。私の中の音楽にはいつも彼女がいる。

 

hiloと私はもう10年来の付き合いだけど、それは(今でも互いに夢を見ているかのような)とても不思議な関係性で繋がっている。絶対に仲良くなり得ないであろう二人が

おまたせぇ♡久しぶりぃ♡

と言葉を交わしてhugをする。お互いにずっと、いまだに、夢じゃないのかな?というようなフワフワしてくすぐったい感覚を抱く。

 

今のように誰もが簡単に"この曲はhip-hopだね"なんてそのジャンルも認識していなかった時代、私は一足先にclubに入り浸っていた。世の中はDISCOに熱狂している時代、私はブラックミュージックにはまり込んでいて、住む場所が変わってもどこで暮らしてもどこにいっても、DISCOと呼ばれる場所よりもclubに通っていた。メロウなhip-hopやメロディアスでアンニュイなR&Bが好きだったし、自分のもつリズムに一番馴染んだ。

 

hiloと出会った頃の私はちょうど色んな事があった後。

その頃の私は、とある出来事を境に日々を歩めなくなってしまい、真面目に勤めていた会社もやめ、ふらふらゆらゆら、毎晩のように出歩いていた。その時代は耐えられない現実から逃れたくて、体の芯まで響くような音の中に首まで浸り、それでも私の中身はいつも無音だった。声をかけてくる黒人とは寝まくり、毎晩お酒も浴びるように飲み、それはそれは人生で一番苦痛だと感じていた頃。一番死にたかった頃。

 

やりまくり、飲みまくり、反吐をぶちまけ、それでも日々は過ぎ去った。そんな事を繰り返したって死ねやしないとわかってそれらの乱舞も少し落ち着き始めたある日、知りあいのバンドマンの子が

"好きなジャンルではないかもしれないけど、見に来ない?"

と声をかけてくれた。普段よりもやかましいジャンルの曲に、友達もいない中それでもその雰囲気は悪くなく、ああこの感じはこの感じでアリね、そう思って聞いていた。

 

音楽はジャンルが違うとそこに集う人間のファッションも大きく変わる。ほかの子たちはTシャツにジーンズと男の子っぽくなってしまうスタイルを上手にフェミニンに傾向させた軽やかさに身を包み、汗だくになって頭を振り乱し、踊っている。私は完全にB-girl寄りだったのでどこにいっても、浮く。敵対がありそうで、一種のあこがれを互いに感じる…というのはジャンルが違えど音楽というベースがあるからで、一歩ひきながらもそこには尊重もあったりする。男性が声をかけてきたくてもかけられない、というのは私にとっての気楽でもあった。死んでしまいたい反面で自分を生かしたい部分もある。好きに飲んで好きに音楽を聴いて好きな時に帰れる。いっそのこと、こっちに路線変更してもいいな、なんて。

 

私はそこに大音量の音楽があってお酒があればそれでよかった。実際のところ、男はあまり必要とはしていなかった。いても、やるだけ。あんな在り方は生き方に迷った上での自傷に近い。誰かに必要とされている、を、相手の"やりたいだけ"に当てはめてすり替え、求められるがままに与える事で自分の存在価値を見つけようとしていた。ただそれだけの物だ。

 

私は後ろのドリンクカウンターに体を預け煙草を吸いながら、ボーっと、音に合わせて組みあがる人の渦を眺めている。小さく揺れるその渦が最高潮に達する頃、その中にひときわ目立つ女の子を見つけた。

 

邪魔だ邪魔だお前ら!どぉけぇぇぇ!と飛び蹴りをするわ、しかしその割に曲の主要ポイントで上げる腕のリズムは外さない、その子が広いスペースを独り占めしようとするとコワモテの男の子が真剣に彼女に殴りかかったりけり返したりする。見ているこちらが面を喰らう程の大乱闘を繰り広げるのに、その子はずっと音の中にいる。頭を振り乱し飲み過ぎて転び、血が出ても何がどうなっても『私はこの曲が好きだぁあああ!』と叫んだりしている。

 

このジャンルの世界って、凄い子、いるんだなぁ…周りは彼女をとても迷惑がったかもしれない。でも私の目には、好きに真剣・好きに必死、周りの目なんか気にせずにそれに没頭できる元気で素直な子、に映っていた。羨ましかったのだ。なんせ私はからっぽだった。と同時に少し、そこに自分自身の姿も見ていた。私が何かに逃げてしまいたいと感じるように、あの子を支えているのは音楽で、彼女もまた逃げたい界隈の住人なのかもしれないな、と思うと、あんなに強情に牙をむきながらこれは私の物だといわんばかりの虚栄張るその姿がとても好ましく思えた。

 

自分のファッションを変える事はなかったものの、たまにバンドの音楽も聞きに行った。純粋にそれだけを愛する人の集まりは、やり箱や汚れなんて呼ばれる当時のclubとは違う、汗にまみれた清潔さがあった。それからはよく、彼女を見かけた。

 

彼女が好きなバンドがはけてしまうと彼女もはけてしまう。扉の外で、連れ立ってきていた仲間に囲まれ、彼女は道に転がって『ぐわぁー!今日も最高だったぁああ!』と、もう化粧も落ちてアイラインもはげはげの状態で叫んでいたりもした。私のようなタイプの人間は彼女達から見ると「なんだよーあのすました感じはよ!」と言われ無意味に殴られそうでw話した事はなかったけれど、また今日も彼女をみた!と少し嬉しかったりもした。

 

彼女はいつも最前列、私はいつも一番後ろ。

 

そうして幾晩も賑やかな夜は過ぎ、通っていると周知されるようにもなり、たまに来てるよね、や、誰かの友達か、の声もチラホラ出るようになった。バンドには必ずバンギャと呼ばれる子たちがおり、その子達は彼らが奏でる音楽もさることながら出来れば彼ら自身も自分の物にしたい、という気持ちが強く、あれは誰かの彼女じゃないのか、あの女だけは色が違うのに足繫く通っている、と訝しがられるようなポジションに私はいた。

 

女の子というのはすぐに情熱を傾ける。きっかけはなんだっていいのだ。それこそSEXから仲良くなる事もあるかもしれない。自分が相手を知っていても相手は自分の事を深くまで知らないのに、頭からがっつくようなのめり込みを見せる。これだけあなたを愛している、を理解して欲しいのだ。そこへ来ると私のような"どうでもいいな"と感じている人間は、逆に、モテる。

 

演奏が終わったバンドの男の子たちはステージを降りたらドリンクを買いに後ろに来る。たまたまそこに私がいる。口のうまい子は

"いつも来てるよね。誰かの知り合い?可愛い子がいるなぁっていつもステージから見てたんだ"

そんなセリフも頂くようになった。いつもはclubにいるんだけどたまには違うリズムも欲しくなる、そんな説明で私は自分を変えようともしなかったし、染まる事はなくそれらの時間を楽しんだ。そもそも誰に迷惑がかかるという事でもないのだ。どうでもいい。楽しければ、頷けるなら、なんでも。

 

その内にあのバンドは上手だな、や、自分の音の好みも出てきて、その子たちが話しかけてくれると嬉しく感じたりもした。ただ、自分が好きかどうかしか興味がなかったけれど、いいなと思うバンドの子が私と時を過ごしたいと申し出てくれると一時の優越感があった事にも間違いはない。

 

よい、を持ちかえる。よい、だけを軸として。

 

彼女はバンギャは嫌いなタイプな人間で、立ち位置的に一線ひいていたのも見ていてわかっていたし、向こうとすればいつも来ている私は誰かの女なんだろう、そんな物だったのだろうと思う。私は勝手に彼女に親近感を抱いていたけれど。

 

ある日にバンドの子から連絡があり、大箱でする事が決まったと聞いた。ライブハウスでのチャージはお小遣い範囲でも、大箱となると少し値が張る。彼らはまたライブハウスで演奏するのでそれでもくる子は余程のファンに絞られる。お誘いをくれた事だし、せっかくの晴れ舞台、それは観に行くに決まってるでしょう、とひとつ返事でOK、当日いってみると彼女達がいた。そこで話しかけたのが私たちの始まり。

 

何故音楽なのか。それらを話し語り合い、自分の事をボクと呼ぶ彼女は、そこでしか生きられずそこにしか自分の居場所がない、と言った。

だからボクはいつも音の中にいる。

彼女は彼女で彼女なりの痛みを抱えたまま、踊り狂い、音に明け暮れ、朝を迎えた。

 

私は彼女が音の中で自由に泳ぐのを後ろから眺めるのが大好きで、そのポジションはずっと変わりはしなかったものの、同じ時間を共有し、彼女が音に没頭しているととても神々しくも感じ、心根はとても優しくてお世辞なんかは一切言わない、いつでも本音の彼女に気持ちよさと生き辛さを見ていた。音がなくても外であったり、始発が来るまで話し込んだり。お互いによい距離感で、お互いに楽しんだ。

 

彼女が暴れ、音に狂い、思うがままに舞い始めると泣きたくなるのだ。自由と不自由がいつもそこに共存した。気持ちも、音も唸る。響く。幸せで寂しい、夜の生き物。

 

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(画像 ※その夜にhiloがくれたチョコレートの香りのするキャンドル)

 

その彼女を連れ立って何年振りかのLIVEへいった。彼女が音に体を揺らす。さすがに知らないバンドでそこまで派手にはやらかさないが、ハイハットが響くたびに彼女の足踏み、彼女の揺れがここから見える。泣きたくなる。泣きたくなった。何年も何年も過ぎたのに変わったようで何も変わらず、何も変わらないというその事が大きく変わった。私たちは大人になった。

 

酔っぱらった彼女が吉田君に私がどんな子だったかを語る彼女の言葉に大爆笑した。

「ほんとねぇ、この人(私)が連れて帰る男は全部全部端から売れてって、その辺のバンギャとはちょっと違ったんだよね~。なんだろー、もう、コーマン界のマザーテレサかなんかかよw」

と言ってみたり

私はこんなですけども!と言った後に「麦ちゃんは絶対こんな言葉使ったりしないけど!あの人は海みたいに広くて絶対何も悪く言ったりしないからボクは居心地がよくってねぇ!!ほんとあれなんだよ、そこいらの女とはわけが違うんだよ~!」

と自慢してくれたりしていた。よく飲んで、何度も同じことを繰り返すような状態だったけど、私は彼女が可愛くて可愛くて仕方がない。迷って悩んで生きて来た、不器用さは全て、音に飲み込まれる瞬間に還元されて、それは弱さという強さを魅せて、美しい人間だ、そう思い夜が終わる。終わった夜の横断歩道の先で抱きしめる。

 

また会おうね~♡

またね~!会えてほんと嬉しかった♡

ちゃんとおうち戻ってね。大変だったら連絡して!

 

可愛くて弱くて強い女の子。

私の中の一部分 彼女はいつも最前列、私はいつも一番後ろ。

 


ネズミハナビ 「そんなの無理だし。」(MusicVideo)